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2018.01.20

ぎゅぎゅっとてんこ盛り : 第3回 中村伊知哉さん -後編-

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様々な分野の最先端の方々にお話をお聞きするインタビュー企画「ぎゅぎゅっとてんこ盛り」今回登場するのは中村伊知哉さん。CiP協議会の理事長や慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科の教授をされています。メディア政策、情報通信、デジタル知財、ポップカルチャーなどを専門分野とする先生が見据える展望についてお話を伺って来ました。今回は後編をお届けします。
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  ------ AIとロボットによる「超ヒマ社会」は好きなことを見つける能力が大切。 ------   ーー ITやAI技術などが進むことで仕事の効率は上がり、イヤイヤ仕事をやる時間が減り、好きなことをできる時間が長くなるかと思います。興味のあることに没頭できる社会を作るためにはどのような仕組みが必要ですか?   中村 「超ヒマ社会」、早よ来い。人工知能とロボットが半分の仕事を奪うという予測があって、オタオタしている人もいます。でも、僕は半分どころじゃなくて9割やってほしい。彼らに仕事を任せて、自分は1割くらい仕事をすれば十分。超ヒマになった残りの9割で何をするかを考えたい。自分が本当に好きなものを見つける能力が必要になるんじゃないかな。   ーー どのように好きなものを見出せばいいですか?   中村 片っ端からやること。多分、超ヒマ社会で大事なことは、ご飯を食べることと、恋愛と、スポーツと、エンタメと、何か作ることと、モーレツに感動することと、ヒリつくことと、そんなかんじ。片っ端からやんなきゃ。ヒマなんだから。打席に立つ数をいかにたくさん持てるかっていうのが、その人の力なんだよね。チャンス、広いよねぇ。超ヒマ社会は、メッチャ忙しいよ。   ーー チャンスを広げるためにも自分で好きなものを見つけないとですね。   中村 それをAIに見つけてもらうこともありだけども、本当に楽しいかどうかはわかんないよね。やってみないと。   ーー 教育現場などにもAIが入ってくるのですか?   中村 もちろん!英語の先生はいなくなるんじゃないですか。AIが翻訳してくれるもん。早くそうなってほしいですよ。AIがフランス語もイタリア語も中国語もロシア語も全部引き受けてくれる。時間かけてやっと頭に押し込んだものの多くは、これから必要なくなる。ぼくらが詰め込んだのは何だったんだって思いたい。もっと別に勉強したいことはいっぱいあるんですよ。どうすればねっとりしたカルボナーラが作れるのか。どうすれば恋愛を成就できるのか。どうすれば160kmのボールを弾き返せるのか。どうすればツェッペリンのグルーブ感が出せるのか。どうすれば爆笑させられるのか。どうすればフォロワーが1万人になるのか。どうすればeスポーツでオリンピックに出場できるのか。全部とっても勉強がいること。勉強って大事になってきます。勉強が大事なヒマつぶしになるからね。超ヒマ社会は、超勉強社会だ。  
    ------ 「超ヒマ社会」実現のためにも、技術を徹底的に使うことが大切。 ------   ーー 勉強は義務からヒマつぶしになるのですね。   中村 勉強が義務なんて時代遅れです。9割ヒマつぶしの社会では義務は1割。それはAIやロボットがこれまで僕たちが生産してきたものを代わりにやってくれるってことが前提です。いろんな仕事をAIが担当して、稼いでくれる。僕らがヒマになっても生産は落ちず、むしろうんと上がる。その稼ぎで僕らは生活する。その代わりに好きなことに邁進する。早くそうなって欲しい。   ーー そのような社会が実現するまでにどれくらい時間がかかりますか?   中村 シンギュラリティでAIが人間の能力を超えるのが2045年と言われています。あと30年ないから大変だって騒ぎだけど、僕は30年も待っていられない。あと10年でかなり来ると期待しているんです。そうすればギリギリ生きているかもしれないからね。てゆーか、今日からもうできる仕事はヤツらに手渡していきたい。   ーー 実現時期を早めるためにすべきことはありますか?   中村 はい。徹底的に使うということ。まず政府がガンガン使うことが大切。事務次官や局長はAIでもいい。そうしたら変わる。   ーー その実験場所として特区があるのですね。   中村 最初はね。特区で使い始めるんですけど、すぐにみんなで使おうよ。まず特区で、人の代わりに仕事をやらせてみて、上手くいったらすぐ政府で使ってください、てなことをどんどんやっていきたいんです。  
    ------ みんなで作るPop & Techの集積地、竹芝。 ------   ーー では、CiPの話に移ります。中村先生が取り組んでいるCiPは、竹芝地区に「コンテンツ×デジタル」産業の拠点を形成する構想で、研究開発・人材育成・起業支援・ビジネスマッチングを柱に活動しています。2015年に社団法人CiP協議会が設立されましたが、現在、見えてきたものは何でしょうか?   中村 この活動が必要だという確信です。デジタル・ポップの街をつくるなんていうのは当初は単なる妄想だったんですが、動き始めたらいろんな関係者があれをやりましょうこれをやりましょうと寄ってきました。CiPがいま日本に求められている取組だったってことです。  想定外だったのは技術の変化が予想より速いこと。2014年当時、2020年ごろにIoTやAIなどのブームが本格化するだろうから、それまではスマート・クラウド・コンテンツってことで準備をしていこうとなりました。でもそれがもう一気にIoTもAIもVRもARも8Kも5Gもブロックチェーンもかたまりになって目の前に来てしまっている。想定よりも相当速いですね。   ーー 時代の流れを見越して取り組むのは大変では?   中村 はい。コンテンツを集積するってことで音楽やアニメなどを中心に考えていたのが、すぐにそれこそ超人スポーツだとか、IoTやVRやロボティクスの世界ですよね。そういったものも軸になってきた。スタンフォード大学とか、韓国、シンガポール、ヨーロッパと組んで、国際的に進める必要も出てきた。  「CiPファンド」の設立も、「世界オタク研究所」の創設も決まりました。2020年に開校するIT専門の大学「i大」のサテライトを誘致することも決まりました。当初の構想からかなり進化しています。恐らく2020年には、今考えているものよりも、もっと進化した形での街開きになると期待しています。  だけど問題は、その後も変わっていくということ。導入する技術や掲げる目標がどんどん変わっていくということを、最初から覚悟した街づくりにしなければいけない。  イメージは秋葉原に近いかな。秋葉原はもともとラジオのパーツの街だったのが、70年代に家電の街に変わって、80年代にパソコンの街に、90年代にオタクの街に性格を変えてきている。CiPはオープンしてから70年間続けるのですが、同じようにコミュニティの形を変えながらも「あそこはオープンしてから70年間ずっと変わり続けているよね」と言われるようになるんじゃないかと。  京都の西陣は、織物の産地として500年の歴史を持ちます。500年続いたのはなぜと長老に聞いたら、「ずっと変化し続けてきたからや」とのこと。そういうことかと。   ーー CiPが進化しつつも守らなくてはいけないことはありますか?   中村 「Imagine & Realize」です。想像して、創造する。それを続ける。そして技術や新しいものをぎゅぎゅっと集積する。初音ミクのようにね。ボーカロイドというテクノロジーと、アニメキャラのポップを、ニコニコ動画というソーシャルメディア上でみんなで作り上げたのが初音ミク。テック&ポップ&”みんな力”の結晶です。CiPの目指す先は初音ミクなんですよ。   ーー CiPのきっかけはどんなことだったのでしょう?   中村 東京都が持つ土地を再開発するという発意です。それならPop & Techの街にしたらいいんじゃないですか?と提案したら、それがウケて、オリンピックも来ることも決まり、いいね!いいね!と転がっていきました。   ーー CiPは日本全体への波及効果を持つのでしょうか?   中村 僕らの活動はきっかけに過ぎません。竹芝にPop & Techの街の集積地を作りますが、そこだけにとどまらない。その後、都内でも羽田や渋谷のように同じくPop & Techの構想を打ち出した場所があるし、品川などの大開発構想もあります。大阪、京都、福岡でも同じような構想があります。それら全てと連携して“CiP列島”になりたいです。竹芝はその中のキックスターターであり、国家戦略特区として「21世紀の出島」となって、やんちゃな実験を繰り返すテストベッドになりたい。アメリカの東海岸、西海岸。パリ、バルセロナ。シンガポール、ソウル。それら拠点とも連結したい。全国、世界のPop & Tech拠点のハブになりたいです。   ーー 連携する “みんな力”はどのようにして高めることができるのですか?   中村 一部の企業や役所だけでなくて、いろんな人に参加してもらうコミュニティをどう作るか。その軸になるのは所謂ビジネス現場のような場所ではなく、日本らしい緩い広場にしておく必要がある。Pop & Techでみんなが参加した集積地づくりはまだ世界でも成功しているケースは見当たりません。挑戦です。   ーー 海外でも似たようなコンセプトはあると思いますが、違いは何でしょう?   中村 成功している一例はシリコンバレーだけれど、あそこは谷で田舎でだだっ広すぎる。CiPのようにぎゅっとコンパクトにPop & Techが両方あってみんなが集って毎日ガチャガチャ何かやっているモデル都市はありません。  SXSWのオースティン、アルスエレクトロニカのリンツ、参考になる街もありますが、基本はイベントです。こちらは「毎日」ニコニコ超会議をやっているような場所にしたい。年に1回やるだけでも大変だけれど、そんなに規模がでかくなくていいから、毎日何かやっているような場所にしたい。テクノロジーの学会もあれば、ハリウッドばりのハイエンドなエンタメもあって、シリコンバレーみたいにぐりぐりとビジネスも回している。そういうことができればいいな。  
    ------ 絶対ブレイクする日本のお笑いコンテンツ。 ------   ーー 先生が着目している分野はありますか?   中村 海外で最初にブレイクする漫才師は誰かってこと。  日本が持つコンテンツで最強のものの一つが漫才だけど、まだ全く海外で売れていません。いずれ絶対誰かが売れるんですけど、それが誰のどういうスタイルなのか、ウケる要素なのかが気になります。日本語で勝負して勝つのか、外国語の漫才で勝つのか、サイレントでいくのか。  海外で最初にブレイクした日本のロックバンドは「少年ナイフ」ですが、あれはウケる要素を練って戦略的に仕掛けたものじゃない。自分たちの気持ちいい音楽をやっていたら、勝手に米英で火がついた。お笑いも計算外のところから火がつく可能性があります。  日本食が海外でブームだけど、それは世界の人々、特に西洋人の舌がやっと追いついてきたということであって、それに20年かかった、と京都の三ツ星料亭「菊乃井」の主人、村田吉弘さんが仰っていました。色んなところで醤油やだしの味に慣れさせて、やっと伝わるようになったんだと。  お笑いはどういう火のつき方をするかがわからない。吉本がNetflixで「火花」を作って190か国に配信したところ、その視聴者の半数は外国の人で、特にアメリカのユーザーが多い。それはNetflix側もびっくりしている。ポテンシャルはあるはず。ピコ太郎さんが可能性を示したから、もうすぐでしょう。   ーー 先生の原動力になるものはなんですか?   中村 芋焼酎。   ーー 好きなポップカルチャーは?   中村 全部。ポップなもの全部。人には人のポップがあって、客観的に決めるものではない。だからポップは面白い。これはポップだっていうのは、美味しいっていうことと同じで、見る人が見れば歌舞伎は実にポップだけど、他の人にとっては伝統芸能だったりする。それでいい。     ------ まるごとパンクにやってみて、100年先を見通す ------   ーー 最後に先生の持つ問題意識について教えてください。   中村 IoTとかAIとかブロックチェーンとか、これまでと全然違う一連の技術がドカンと現れてきました。これまでの20年はパソコン、ネット、コンテンツの「デジタル」で、この10年はスマホとクラウドとソーシャルの「スマート」に進化して、今に至ります。  でも、次に来る「ウェアラブル、IoT、AI」の波は、同じような一まとまりの波に見えて、実はこれまで人類が経験していない、波というよりも、月が太陽に交代するような、海が陸地に姿を変えるような、生態系を揺るがす変動です。僕には答えはありません。不安はなくて、高揚感に包まれていますが、見通しはきかない。なので、どういう進路があるかということを言ってくれるヤツら全員に話を聞きたい。そしたら、次の展望や課題がぼんやり浮かんでくるんじゃないかな。  20年前にインターネットが出てきた時は、普及したらどうなるかが見えていたんです。民主化されるとか、世界中の知識を得て、表現できるようになるとか、リアルがバーチャルに移行するとか、アトムはビットになるとか、みんな同じことを言っていました。僕も含めて。そしてそれらはだいたい実現しました。的中しました。  でも、次の技術はそれが見えない。IoTやAIやブロックチェーンができたらどうなるか、みんな勝手に発信している。便利になる、楽しくなるって言う人もいれば、仕事が取られて大変とか、格差が広がるとか言い募る人もいる。破壊力の強い技術だから、ごろんと不安も転がっていて、どうなるか不透明です。僕の役割は、そんなあれこれを、パンクにまるごとImagine & Realizeして、ほんのちょっと、100年先が見通せるようにすることだと考えています。     前編はこちら。    
慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科 教授 / CiP協議会理事長 中村 伊知哉(なかむら・いちや)   【略歴】 1961年生まれ。京都大学経済学部卒。慶應義塾大学で博士号取得(政策・メディア)。 1984年、ロックバンド「少年ナイフ」のディレクターを経て郵政省入省。通信・放送融合政策、インターネット政策を政府で最初に担当するが、橋本行革で省庁再編に携わったのを最後に退官し渡米。 1998年 MITメディアラボ客員教授。2002年 スタンフォード日本センター研究所長。2006年より慶應義塾大学教授。 内閣府知的財産戦略本部委員会座長、内閣府クールジャパン戦略会議、文化審議会著作権分科会小委などの委員を務める。 CiP協議会理事長、デジタルサイネージコンソーシアム理事長、映像配信高度化機構理事長、超人スポーツ協会共同代表、デジタル教科書教材協議会専務理事、吉本興業社外取締役、東京大学客員研究員などを兼務。 著書に『コンテンツと国家戦略』(角川Epub選書)、『中村伊知哉の新世紀ITビジネス進化論』(ディスカバリートゥエンティワン)など多数。

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