2015.05.01
2014年度報告書 第2章 CiPの機能
前章において述べた竹芝/CiPプロジェクトの4つの機能、1)研究開発、2)人材育成、3)起業支援、4)ビジネスマッチングについて述べる。
竹芝/CiPプロジェクトの機能を考える上ではこれらの機能が持続して働き続ける仕組みを作ることを重視したい。
さまざまな機能を標榜して作られた組織や拠点はこれまでも数多くあった。省庁や自治体の声掛けのもとに作られた組織や、批判の対象になることも多い“箱もの”も含め、本文で失敗の例を挙げることは避けるが、派手にスタートこそするものの、その後のニュースをあまり聞くことがなく、いつの間にか姿を消しているこれらの組織、拠点の姿は当然、竹芝/CiPプロジェクトの目指すところではない。
技術を生み出し、人を育てて、それを産業として押し出し、世界にビジネスを広げる。これらの機能が循環し、継続するシステムを形成することにより、竹芝は「デジタル×コンテンツ」の集積地として、産業の新たな方向性とビジネスを生みだす発信源となり、その活動を長期にわたり継続し、拡大できるものと考える。
2−1 研究開発
●MITメディアラボ
研究開発におけるひとつのイメージは、MITメディアラボである。1985年、従来のやり方にとらわれない手法で人々の日々の生活にインパクトを与える技術を生み出すことを目的に、米国マサチューセッツ工科大学内に設立されたMITメディアラボは、設立から30年を経た現在も世界を代表する研究機関のひとつとして、新鮮な輝きを持って機能し続けている。
メディアラボには現在、Faculty(教授陣)、Senior Research Stuff(上
級研究員)、Visiting Scientist(客員研究員)が40名以上、70名以上の
研究スタッフと約150名の大学院生が所属し、300以上のプロジェクトに取
り組んでいる。
メディアラボの大きな特徴は、大学の研究所でありながら、その資金源を全て外部スポンサーに依存していることで、年間予算は3,600万ドル、70社以上のメンバー(スポンサー)がおり、電子機器、家電、コンピューターソフト、通信、放送、出版、広告といったメディア産業から、金融、流通、化学、食品、自動車、玩具、さらには官庁や政府機関、国際機関までが名を連ねている。
以下の5つのメンバーシップ区分があり、
・CORPORATE RESEARCH PARTNER
個別企業からの研究依頼
・CONSORTIUM RESEARCH SPONSOR
コンソーシアム形式での研究開発への参画に加え、社員をメディアラボ
に派遣できる
・CONSORTIUM SPONSOR
コンソーシアム形式で研究に参画できる。
・AFFILIATE SPONSOR
メディアラボから研究開発情報の提供が受けられる。
(コンソーシアムの活動成果も一部含む)
・GRADUATE SPONSOR
メディアラボの研究者と個人レベルの交流ができる。
スポンサーとして最も多いのは「CONSORTIUM SPONSOR」として、「Digital Life」「Communications Futures」「Things That Think」「NEXT」「SIMPLICITY」等のコンソーシアムのいずれかに参画する形で、年会費は20万ドル、最低3年契約である。
スポンサーのメリットは、
①メディアラボの知的財産を利用できる
特許やプログラムなど、スポンサーは期間中にメディアラボで開発された成果を無償で使用できる権利を与えられる。しかも、その権利は、参加したコンソーシアムに関わるものに限られず、メディアラボ全体の知的財産を共有できる。メディアラボはスポンサー全体に対しオープンであるかわりに、非スポンサーには2年間ライセンスを与えないという形で非公開にしている。
②ラボの教授陣や学生の知識や知恵を共有できる。
メディアラボの資産である教授や研究員と技術的な課題を共有し、アイデアを検討し、アドバイスを受けることができる。つまり、優秀な人材とその頭脳を自社のために働かせることができる。
③メディアラボのコミュニティの一員となることができる
最先端の情報が渦巻く年2回のスポンサーミーティングには、世界中のスポンサーが集結する。スポンサー同士の情報交換の場としては人脈が世界に広がるとともに、スポンサー間で新しいビジネスが生まれることも多い。
メディアラボにおける価値観は「今までになかった新しい流れを作り出したか」「その新しい流れは人類にとって意味を持つのか」の2つであり、この2つの要件を満たせば、原則として自分のやりたいことに何でも取り組むことができる。
竹芝/CiPプロジェクトにおいて、事業者アルベログランデと慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科(KMD)とはすでに協定書を交わしており、KMDは竹芝に研究の拠点を置く意向を持っている。さらに今後、共同研究のパートナーとして米国スタンフォード大学他の海外大学や国内の大学との関係強化を進め、竹芝/CiPプロジェクトは2019年の竹芝新施設開場時の共同研究拠点の設置に向けて進んで行く。
しかし、前記のようにMITメディアラボが機能し続けているのは、必ずしもMIT内に設置されたものだからではない。そこで行われている研究が企業にとって興味を持ち、参加せずにいられないものであり、そのことが優秀な研究者と企業のコミュニティを生み、新たな事業を生み出すという良好な循環が行われているからなのである。
竹芝/CiPプロジェクトの研究開発機能が有効に機能するためには、教育機関への誘致活動とともに、特区という特性を生かしながら、竹芝発の研究プロジェクトを企業や省庁、自治体、国内、海外の大学を巻き込んで生み出していくことが必要だろう。
CiO/竹芝プロジェクトにはすでに後述する協議会の設立に向けて、研究のアイデアが寄せられている。以下にその一部を紹介する。
●アーティストコモンズと音楽アーカイブ
アーティストコモンズは、アーティスト(実演家等 *キャラクター、アスリートにも拡大)にIDを付番し、コンテンツ、ライブ、関連商品の正規情報を流通させるためのデータベース整備、IDに基づく、テキスト、写真、動画等のメタデータ体系及び基本データ整備、IDとメタデータを利用した、テレビ、スマートフォン、デジタルサイネージ等からなるマルチスクリーンサービスの開発、IDと基本データをもとにした多言語表示の提供、東京オリンピックに向けた、イベント情報、アスリート情報等を外来者向けに提供する情報基盤の開発を目的に一般社団法人音楽制作者連盟(FMPJ)が進めているプロジェクトである。
また、アーティストコモンズを用いて音楽映像アーカイブを整備し、権利者不明の映像を含め、区域限定の公開モデルを作るプロジェクトも併せて検討されている。
これらの研究は、CiPにおいて、FMPJを中心に進める予定である。権利者不明の映像を含むコンテンツを蓄積し、区域限定での公開を行うにあたっては、特区としてお竹芝の特性を生かし、著作権法の規制緩和が期待されている。
● IT政策研究会(IT Policy Round Table)
IT政策研究会は、2014年11月よりKMDが、今後10年の国際的なIT政策を日米合同で検討することを目的に、スタンフォード大学APARC(アジア太平洋研究センター)と共同で開始したプロジェクトである。
産学官が共同したプロジェクトを指向し、企業会員としては、NTTドコモ、住友商事、ディー・エヌ・エー、エフエム東京、博報堂DYメディアパートナーズ、ウォルト・ディズニー・ジャパン、有限監査法人トーマツの7社が参加している。
また、内閣官房、経済産業省、総務省といった省庁、研究機関である東京大学からオブザーバーを迎え、これまで開催した国内会議、国際会議でもプレゼンテーションをいただいている。
IT政策研究会は、2015年4月に発足するCiP協議会に合流し、協議会内の研究部会として活動を継続するが、今後、こうした明確な目的を持ったプロジェクトを理事会員とともに企画し、慶應義塾大学の他にも、国内、海外の大学を巻き込んだ研究プロジェクトとしていくことが、研究機関としての竹芝/CiPプロジェクトの研究活動を構築していくためのひとつの方法だろう。
●超人スポーツ(Superhuman Sports)
超人スポーツは、テクノロジーの進化を背景に、身体とテクノロジーの融合により誰もが身体的制約・空間的制約を超えて楽しむことができる「人機一体」の新たなスポーツである。
例えば、怪力や空中飛行、瞬間移動、超動態視力といった超能力を、パワーアシストや小型ヘリ(ドローン)、テレイグジスタンスや特殊ゴーグルなどの最先端のテクノロジーにより、本人自身の能力のように扱えるようにすることで、これまでとは違った切り口からスポーツを楽しむことが出来るようになる。
この超人スポーツの開発と普及を行い、関連技術と関連産業の発展を促すことを目的に、KMDの稲見昌彦、中村伊知哉両教授と、東京大学大学院の暦本純一教授を共同代表に、国内の研究者・クリエーター・スポーツ関係者を中心とした約50名が委員となり、すでに「超人スポーツ委員会」が設立され、活動を開始している。
竹芝/CiPプロジェクトでは、この超人スポーツ委員会と連携して、超人スポーツの開発、普及活動の推進を行っていく。
この他にも、前章において紹介した「次世代デジタルサイネージ」エフエム東京を中心とした事業会社が推進する「マルチメディア放送」等のアイデアが寄せられており、また、CiPに参加を予定する企業、団体との間でも今後の研究テーマに関し、協議を進め、産官学さまざまなメンバーが集まる研究の場を構築していきたい。
2−2 人材育成
勿論、研究開発を通じての研究人材の育成、起業支援を通じての産業人材
の育成等、人材育成はCiPのどの機能にも関連してくるテーマだが、当面CiPが取り組む人材育成に関しては2つの方向が考えられる。
ひとつはデジタル技術を活用した子供世代への教育であり、もうひとつはコンテンツ産業に携わる人材の育成である。
2−2−1 デジタル技術を活用した子供世代への教育
NPO法人CANVASが運営する「ワークショップ・コレクション」は、この分野における象徴的な事例である。
●「ワークショップ・コレクション」
ワークショップ・コレクションは“世界初”のこども向けワークショップに特化した博覧会イベントとして、2004年にスタートした。全国に点在する子供向けワークショップを一堂に集め、一般に広く紹介するこのイベントは、毎年1回開催され、第1回の来場者は500人だったが、2013年3月に慶応義塾大学日吉キャンパスで開催された第9回では、2日間で約10万人の来場者を数え、国内外から「世界最大のこども創作イベント」と評されている。
ワークショップを提供するのは、学校、大学、企業、ミュージアム研究者・技術者、アーティストなどで、産官学のさまざまなプレイヤーが連携して、造形、絵画、サイエンス、映像、環境、デジタル、音楽、様々なジャンルにわたり約100種もの多彩なプログラムが同時進行的に展開される。近年では海外ワークショップの参加や海外展開の要望もあり、ワールドワイドな展開も視野に入れている。
●DiTT、CANVASとの連携
デジタル技術を活用した子供世代への教育については、研究、普及のため
の機関として、DiTT(デジタル教科書教材協議会)が活動を続けている。DiTTは、デジタル教科書の普及推進を目的に、2010年5月に設立され、課題整理、政策提言、ハード・ソフト開発、実証実験及び普及啓発といった活動を行っている団体である。2015年2月現在で、幹事、一般を合わせて会員95社が加入している。
竹芝CiPプロジェクトは、DiTTと、前記「ワークショップ・コレクション」を企画・運営するNPO法人CANVASと連携するとともに、開業以前の段階から研究テーマに即したワークショップ活動を行っていきたい。また、施設開業時以後は、施設内にワークショップ用スペースを常設し、実験、普及の場をするとともに、適切な時期に大型の普及、啓蒙イベントを実施できる場としても機能させていきたい。
2−2−2 コンテンツ産業人材の育成
多くのコンテンツの制作工程がアナログからデジタルにシフトする過程
において、デジタル制作を行う人材の養成が急務とされているが、例えばマンガ、アニメ等のカテゴリーにおいては、アナログの時代の積み重ねが長く、成功が大きかった故にシフトが進んでいない。また、コンテンツ産業におけるプロデューサー人材の育成の必要性は、以前から指摘されていた課題だが、教育機関での恒常的な教育については未だ確立されておらず、産業界内部の人材に向けた教育カリキュラムも整っていない。
こうしたテーマに関するCiPの関与は、文部科学省が「成長分野における中核的専門人材養成の戦略的推進事業」の一環として進める「アニメ・マンガ人材養成産官学連携事業」に参画することによりスタートし、CiP内に人材育成分科会を設けることにより連動、2019年の施設開業時までに文部科学省の事業をCiPが引き継ぎ、教育機関、業界団体と連携し、竹芝施設内に人材育成機関を誘致して恒常的な人材育成の場とすることをひとつの目標としたい。
また、同じ文部科学省事業において、CG、ゲームの職域プロジェクトを受託した学校法人中央情報学園からも、同分野での人材育成をテーマにCiPに参加したい旨が寄せられており、こちらの事業についても竹芝/CiPプロジェクトの人材育成テーマのひとつとして取り組んでいきたい。
●文部科学省「成長分野における中核的専門人材養成の戦略的推進事業」
平成25年、文部科学省は、今後の成長が期待される産業分野での人材育
成を目的に、教育機関を対象として、産業界と共同した標準モデルカリキュ
ラム等の開発・実証、学習システムの構築を行う事業を開始した。
文部科学省では上記目的により、「環境、エネルギー(建築、土木、設備等)」
「食、農林水産(フードビジネス、林業、畜産等)」「医療、福祉、健康(介
護、看護、スポーツ、栄養等)」「クリエイティブ(ファッション、デザイン、
美容、アニメ、漫画)」「観光(インバウンド促進等)」「IT(クラウド、ゲー
ム、CG、情報セキュリティ等)」「社会基盤(次世代インフラ、インフラ海外展開、インフラ再生等)」「工業(防災都市システム)」「経営基盤強化(税務、税法、中小企業会計等)」「グローバル」といった分野の20コンソーシアム、64職域プロジェクトへの予算措置を行っている。
クリエイティブの分野については、日本工学院高等専門学校がマンガ、アニメの2職域プロジェクトの事業を受託し、「マンガ、アニメ人材養成産官学
連携コンソーシアム」として、現CiP準備会代表の中村伊知哉を統括委員
長として、産業界、教育界の有識者をメンバーに活動を開始している。
マンガ分野においては、マンガのデジタル化に着目し、マンガのデジタル制作人材の育成をテーマにカリキュラム案を策定、専門学校生あるいはプロの漫画家を対象に講習を行うことで実証研究を開始している。
アニメ分野に関しては日本動画協会の協力のもとに、アニメ制作工程のデジタル化の実態調査をもとにカリキュラムの策定を進めており、また並行してアニメ産業界の中堅人材の育成に着目したプロデューサー人材の育成カリキュラム案を策定し、講習を通した実証実験を行っている。
2−3 起業支援
「起業支援」の機能に関し、ひとつの理想的イメージとしてあるのは米国西海岸の500Startupsである。
●500Startups
500Startupsは、シリコンバレーに本拠点を持つ著名アクセレーターの1つである。インターネット事業のシードファンドとスタートアップインキュベートを兼ね揃えたシードアクセラレーターで、2010年に創設され、4年間あまりの期間で、500以上の企業に対して、700回以上の投資を行ってきた。
500Startupsの特徴は、「みなで教え合い、高め合い、競い合う」シリコンバレー特有のカルチャーを体現している点にある。創業者以下7人のフルタイムと5人のパートワークと体制はスリムだが、175人のメンター(相談役)と400人以上のファウンダー・ネットワークが500ファミリーを形成する。
メンターには次の世代を助けたいという起業家や元起業家は勿論、投資先を見つけたいエンジェルもいると同時にフェイスブックやグーグルなど、スタートアップを啓蒙したいプラットフォーム企業のエヴァンジェリストなど、事業者側のメンターもいる。また、400人を超える創業者、CEOによるファウンダー・ネットワークは、技術から採用、資金調達までさまざまな相談に答える互助ネットワークを形成している。
500Startupsによる投資は1社当たり5万ドル程度。旧来型のVCに比べて1~2ケタ少ない。1社当たりの投資額を少なく抑える一方、多くの企業に投資する。
プログラム参加が決定したスタートアップに500Startupsは、まず5万ドルを出資し、株式持ち分の5%を受け取る。カリフォルニア州マウンテンビューの10,000平方フィートのインキュベーションスペースは投資先企業に開放されているが、初期投資を受けたスタートアップはこの場所を中心に同時に25社程度が参加する4か月半のアクセラレーションプログラムを受ける。
デザインブートキャンプやワークショップ、起業家とのランチシリーズなど様々なメニューが設けられた4か月のプログラムの終わりにはマウンテンビューとニューヨーク(配信も行われる)でのデモ・デーが行われ、投資家をはじめパートナー企業など数百人が会場に詰めかけ彼らの評価を仰ぐ。
これで誰の評価も受けなければFai Fastである。500StartupsはFai Fast(早く諦める)を重視しており、すでに無価値と判断したスタートアップも多いが、すでに10社以上の会社が米グーグルや米ツイッター、米シスコ、米リンクトインといった会社に買収された。2014年にクールジャパン機構からの出資が決定した日本のポップカルチャーの海外向け配信ポータルであるTokyo Otaku Modeも500Startupsのサポートを得て、サンディエゴを本社に起業している。
●NTTドコモ・ベンチャーズ
資金が集中し、起業の環境が整ったシリコンバレーとは環境が異なるが、国内においても、NTTドコモ・ベンチャーズが総額250億円の資金を運用する2つのファンドを組成して、起業支援を行っている。
主な対象はアーリーステージのスタートアップやミドルステージのベンチャー企業で、重点投資テーマは、「コンテンツ・プラットフォームサービス」「電力、電池」「認証セキュリティ」「ビッグデータ」「周辺機器連携、ソリューション」「クラウド」「コミュニケーション・プラットフォーム」である。
同社が運営する「ドコモイノベーションビレッジ」が実施しているプログラムは以下の2コースである。
①Villageアライアンス
・テーマ:新たなサービスをベンチャー企業とドコモで共同創造
・対象:ミドルステージ以後のベンチャー企業
・支援内容:ビジネスプラン策定、ビジネス化検証
②Villageシード・アクセラレーション
・テーマ:ドコモがスタートアプの成長をサポート
・対象:シード・アーリーステージのスタートアップ
・支援期間:約4.5ヶ月間
・支援内容:メンターによるミーティング
メンター、ドコモの関連部門による各種セミナー
チューターによる開発サポート
共同オフィススペースの提供、発表機会の提供
コンテンツ試験環境、クラウドコンピューティング環境の提供
さらに、これらとは別に「攻殻機動隊の世界を創るスタートアップ集まれ!」として、アニメで描かれた仮想現実の世界で電脳や義体、ロジコマなど「攻殻機動隊」の世界をリアルに創っていこうとする意志のあるスタートアップを募集している。
●KDDIベンチャーズ
また、KDDIは、総額100億円の「KDDIオープンイノベーションファンド」を組成し、スタートアップとITベンチャー系企業に向けた企業支援を展開している。アーリーステージのスタートアップに向けては育成支援プログラム「KDDI∞ラボ」として、KDDIからのサービス開発・経営サポート等の支援と、メンタリング企業・サポート企業から成るパートナー連合15社からの支援を受けながら、3カ月間で事業を立ち上げるプログラムを運営している。
「KDDI∞ラボ」のメンタリング企業は、クレディセゾン、テレビ朝日、凸版印刷、日立製作所、三井不動産の5社、サポート企業は近畿日本ツーリスト、セブン&アイHD、コクヨ、大日本印刷、東急電鉄、バンダイナムコ ゲームス、プラス、三井物産、ソフトフロント、パルコの10社で、同ラボの主なサポート内容は、
・ KDDI事業部門からの定期的なメンタリング
・ 開発の進捗状況を参加している全チームで共有化するWeekly
Presentation開催
・ 他の参加チームやKDDI事業部門と交流できるコミュニティスペース
の提供
・サービス開発後のauスマートパスへの掲載等の検討
・ビジネスプランの検証 出資、事業提携の検討
・他出資者の紹介
・会社設立、運営に関するサポート
である。
●TXアントレプレナーパートナーズ(TEP)
また、つくばエクスプレスに着目したTXアントレプレナーパートナーズ
(TEP)は、柏の葉キャンパスを主要拠点に、つくばエクスプレスで結ばれたつくば、秋葉原に拠点を置いて活動している。
TEPは、つくば、柏の葉の研究者や起業家とエンジェル、パートナー企業とのマッチングを行うとともに、スタートアップの育成支援を行っているが、主な支援内容は以下の通りである。
①創業チーム組成・強化支援
研究者・起業家とメンター・エンジェル等ビジネスパートナーのマッチング、及び人的資源の紹介による創業チーム組成・強化の支援(研究者・起業家への助言、エンジェル紹介、経営指導、事業計画のブラッシュアップ、人的資源紹介等)
②ネットワーキングイベント
具体的事業の範囲にとどまらない、起業家のための幅広く密なネットワーク構築の支援(懇親会、ランチ等)
③ワークショップ
起業家への創業上、経営上必要な知識の提供、個別相談等
(専門知識を有する支援者との個別相談、個別テーマセミナー等)
④対外的認知活動支援、法務支援
メディア等の紹介による起業家の対外的認知活動の支援(PR戦略作成、メディア紹介、ニュースレター作成支援等、法務支援
⑤海外との連携
海外類似組織との連携、起業家のための海外展開支援、海外の起業家が進出する際の支援等
こうした例にとどまらず、スタートアップやベンチャー企業の育成、支援は注目を浴びる領域であり、多くの企業、自治体が取り組んでいるが、これらに対する竹芝/CiPプロジェクトの特徴は、「デジタル×コンテンツ」というCiPが掲げるテーマと、大学を含む研究機関との関係性だろう(TEPは柏の葉キャンパス、つくばに拠点を置き、大学発ベンチャーの支援、育成を指向しているが教育機関との直接関係は持っていない)。
竹芝/CiPプロジェクトにおける起業支援機能のひとつの理想としては、CiPが「デジタル×コンテンツ」を対象領域としたファンドを持って運用することだろう。さらに、CiPへの参加企業、団体、省庁、教育機関等が拡大することで、メンターあるいはネットワークの広がりが得られるものと考える。
アイデアを持った起業家が、ビジネスコンテストやピッチにより、投資を得られる機会を持ち、育成され、竹芝新施設を拠点として活動し、企業、団体とマッチングして業務拡大の機会を得る。CiPがその活動を通して、新しいコンテンツ産業を推進するエコシステムを構築するとすれば、CiPの起業支援もこのような形で、CiPを中心とした環を形成することが必要である。
2−4 ビジネスマッチング
●「ニコニコ超会議」
アカデミズムやビジネスからサブカルチャーまで、あらゆる分野の人間が
集まって、プレゼンや、動画、パフォーマンスやあるいはコスプレのような
形をとって自分を表現する。産官学さらにはユーザーも含めて、様々なジャ
ンルの人々が集まって、出会い、新しいものが始まる。年に1度開かれる「ニ
コニコ超会議」は、ネットユーザーが集まる大型イベントとして知られてい
るが、実は巨大なプレゼンテーションとマッチングの場である。
「ニコニコ超会議」とは、株式会社ドワンゴが主催するニコニコ動画の「会議」(オフラインミーティング)を自称した参加型複合行事である。コンセプトは「ニコニコ動画のすべて(だいたい)を地上に再現する」で、千葉県の幕張メッセが会場となる。エンターテイメント、技術部、料理、政治討論、描いてみた、踊ってみた、歌ってみた、ゲームなどニコニコ動画上で展開されるあらゆるジャンルを網羅して、リアルの場で再現する超巨大フェスイベントである。
前章において、ハリウッドやシリコンバレーの強みが、超一流のアーティストや、ギーク、ビジネスエリートの集積であることに対し、日本の強みは高度な技術力・表現力に加え、性格で勤勉な多くの職人の存在、そしてみんなが参加して生産し、消費される猥雑で混沌とした産業文化力と記したが、この場所はまさにそうしたものを体現している。
2013年に開催された第2回の「ニコニコ超会議2」では、自由民主党、民主党、日本維新の会、日本共産党などの政党が出展した。2014年に開催された「ニコニコ超会議3」では、大相撲幕張巡業、しんかい6500、AH-64Dアパッチ・ロングボウの実物展示が行われた。
当然たくさんのサブカルチャーの展示を行いながら、政治からスポーツまで様々なジャンルの展示が幕張メッセというひとつの場所で行われ、さらには「ユーザー参加型研究」の構築を目指す「ニコニコ学会β」のシンポジウムが読み切れないユーザーのコメントを請けながら行われている。
竹芝/CiPプロジェクトにおいては、参加企業が集う勉強会や、さらにオープンな形でのシンポジウムやマッチングイベントの開催により、ベーシックなビジネスマッチングの形を担保する。しかし、こうした様々な人々が発信し、オープンに交流する形が竹芝の目指すマッチングと考える。
2−4−1 業界の壁を取り払うマッチング
オープンイノベーションが機能して、それぞれの業界の壁が低いIT業界に比較して、旧来のコンテンツ業界は、カテゴリーごとの“むら”によって成り立ってきた。これらはコンテンツごとの利害関係者によって構成されているが、多くは固定化しており、外部からの参入障壁は高い。“むら”同士の交流は薄く、知見が共有されることも少ない。また、コンテンツ産業界(伝統的な)と非コンテンツ産業界の間は、メディアを通してコンテンツ事業者が一方的にコンテンツを供給してきた時代そのままに“壁”が残っている。
技術の開発がオープンになり、メディアの形態が変わって多くの企業がメ
ディア化する中で、こうした“むら”や“壁”の存在は時代に逆行している。
竹芝/CiPプロジェクトでは前述したような発信と交流の場を形成するとともに、こうしたコンテンツ産業界(伝統的な)が持つ閉鎖性を解放する場としても機能したい。
●アニメビジネス・パートナーズフォーラム(ABPF)
竹芝/CiPプロジェクトでは、マッチング拡大の場作りのひとつとして、
ABPFの拡大に取り組んでいく。
ABPFは、アニメ関連企業と異業種とが知見を共有し、マッチングすることによる、アニメ関連産業の国内、海外両方での事業拡大を目的としたフォーラムである。一般社団法人日本動画協会(AJA)の主催で2012年秋にスタートし、2015年3月までに4期を通じて70回以上のセッション(セミナー+マッチング)を行ってきた。
CiPは、ABPFと共同あるいはその事業をCiP事業内に統合することで、参加企業のマッチング、知見共有の機会を拡大したい。
2015年3月で第4期の開催を終えるABPFは、アニメにとどまらず次の
ステージを迎える時期に差し掛かっている。次のステージとは、テーマの幅をアニメ、マンガ、ゲーム、音楽、キャラクターというコンテンツ領域に広げることで、そのために各カテゴリーの業界団体と連携してこれらの業界を横断したコンテンツビジネス・パートナーズフォーラム(CBPF)として、コンテンツ業界(伝統的な意味での)の各カテゴリーの企業が集まり、知見を共有し、マッチングし、新たな事業に取り組み、ともに人材の育成について考える場に機能を拡大していくことである。
CiP準備会は2014年12月~2015年3月まで開催されたABPF第4期において、KADOKAWA会長の角川歴彦氏を招いたシンポジウムをプロデュースする等、ABPFへの協力を開始することで、関係の深化をはかるとともに、ABPFを主催する日本動画協会も現在CiPへの参加について協会内の調整を行っている。
CBPFの理想形は、すでにCiPへの参加を表明している一般社団法人日本音楽制作者連盟(FMPJ)とAJA、さらにゲームの業界団体である一般社団法人コンピューターエンタテインメント協会(CESA)、小学館、集英社、講談社などコミック出版の大手10社による任意団体のコミック10社の会、キャラクタービジネスの業界団体である一般社団法人キャラクターブランドライセンス協会(CBLA)といった団体を加えたフォーラムを構築し、これに異業種企業の参加を受け入れる形である。
竹芝/CiPプロジェクトにおいては、ビジネスマッチングのひとつのテーマとして、このCBPF構築に取り組んでいきたい。
コンテンツ集積地としての竹芝/CiPプロジェクトの目標は、こうした1)~4)の機能が循環していくことで、多様な人材、企業が流れ込み、イノベーションが活性化する場所となることである。
CiPは、産学によるこれらの活動を推進するとともに、官を巻き込んで政策の提言を行い、特区という特性を生かして効果的な実験の場とするとともに、人を呼び込んで発信する活動を行う。出会いを促進し、議論を活発化し、イノベーションが生まれる基盤を形成するためのキープレイヤーとしてその機能を果たす。
次章においては、こうした事業を行うための組織の設計について述べる。